旧石器時代とか狩猟時代の人類の寿命がどの程度であったのか。
研究によれば、ネアンデルタール人は30歳から35歳ぐらいであったそうだ。
原生人類もそれと余り変わらない。
先史時代の生活は、険悪で残忍で過酷であった。
それでも旧石器時代後期、少しずつ人類の寿命が伸びていく。
孫をもつ成人層の人口が次第に増えていった。
この長寿化は、遺伝子の変異ではないという結論が出ている。
何が人類を長寿化させていったのか?
集団生活を営み、そのグループがある程度大きくなると役割分担や知恵・技術の蓄積が始まる。
集団から社会への進化である。
その副産物として少しずつ長生き出来るようになったと考えられている。
原生人類(私たち)の長寿化がある程度進んだ時、新たな文化が発生していた。
改良された道具や芸術的装飾品がそれだ。
長寿化が進むと祖父母が登場する。
祖父母は子孫たちに経済的・社会的資源を与え、自身の息子娘が多くの子をもうけるようにすると共に、孫たちの生存率を高めた。
祖父母・年長者は知識も与えた。
どの植物には毒があるとか、薬草の種類や効用とか、干ばつの時もあの場所には水があるといった環境の知識。
優れた道具を作る技術的な知識まで広範に及ぶ。
祖父母から先祖の話が子孫に伝えられ、同世代の親族との結びつきを強く意識するようにもなった。
そのようにして文化や技術、伝統や芸術が作られ継承されていく。
何度も何度も反復されながら…。
長寿化によって世代間での情報・知恵の蓄積と伝達が促進され、親族関係やその他のグループと社会を形成し、いざという時に助け合うようになったと考えられている。
子孫の生存率を高める知恵、生活を改善していく技術や情報が祖父母・年長者によって次世代に伝えられ、次々に蓄積され社会が進化していく。
つまり、長寿と社会は相い関係し合って進化してきたのだ。
始めは文化・生活様式の変化の副産物であった長寿が、社会を進化に導く原動力になったのである。
それによって人口が増加し、それが更に進化を加速していく。
高齢者はとかく邪魔者扱いされるのが現代だが、果たしてそうだろうか?
知恵や経験・技術に伝統…、今の自分の家庭・家族が直面している様々な問題を解くカギ、実は爺さん婆さんが持っているかもしれないのだ。
少なくともその時代を生き抜いてきた体験者である。
伝えておきたい事は、きっと沢山あるに違いない。
年の功とは言い得て妙なりである。
寺報182号から転載