まず間違いないと思われますが、ちゃんといたんですなぁ、これが。 その子の本名が何であったかは、例によって分かりませんが、仏典には「ラーフラ」、漢訳で「羅ゴ羅」と出ています。 じつは、この名前はたいへん不吉な名前なのです。 インドの神話によりますと、ラーフというずいぶんタチのよくない悪魔がおりまして、せっかく神さまたちが苦労して手に入れた不老不死の妙薬・アムリタを、こっそりと盗んで飲んでしまいました。 ところが、それを太陽とお月さんが目撃、ご注進ご注進とばかり、神さまに告げ口をしました。 さあ、神さまの怒るまいことか、おっとり刀で飛んでいって、たちどころにラーフの首をスッパリと切り落としてしまいました。 しかしその時には、すでに毒がまわって、じゃなくて薬が頭の部分にだけは効いていて、そのために、ラーフは頭だけになって生き延びることができました。 さあこうなると、ニックキやろうはあの太陽と月ということになりまして、ラーフは、しつこくしつこく彼らを追いまわし、時々はかぶりついて食ってしまうこともあるそうで、これが実は日食、月食なのだ、というわけです。 日食、月食のことを「ラーフ」といいます。 そして「ラーフを持つもの」、つまり「障害を起こすもの」が「ラーフラ」なのです。 おシャカさんも、わが子が可愛くなかったはずはなく、わが子の行く末のことを考えると出家の決意も鈍ったのではないかと、想像されます。 そのあたりのことから、ちょっと見た目にへんてこりんな名前を誰かがつけたというわけです。 おそらく、ニックネームというところだったのでしょう。 ラーフラは、やがて大きくなると、出家して父親のおシャカさんのもとで修行を積み、りっぱなお坊さんになったということです。メデタシ。メデタシ。 |