仏式のお葬式をしますと、死者には、生前の名前とは違った、ちょっと風がわりな名前がつけられます。 この名前を、「戒名」とか「法名」とかいいます。 では、この戒名とか法名というのは、いったい何の意味でつけられるのか、知っている人は意外に少ないのではないかと思われます。 ここでは、お坊さんのことは少し置いて、それ以外の人のことについて説明することにしますが、戒名というのは、簡単にいえば、「正式な仏教徒であることを示す名前」ということなのです。 「正式な仏教徒」というのは何かといいますと、ただ自分で自分のことを仏教徒だといっているだけでは、正式の仏教徒ではないのでありまして、「三帰五戒」をきちんと守る人だけがそう呼ばれます。 「三帰」というのは、「悟った人」と「仏教の教え」と「仏教の教団」の三者に帰依すること、つまり、忠誠を誓うことです。 まず、「悟った人」というのは、サンスクリット語の「ブッダ」のことで、「仏陀」、「仏」と漢訳されます。 「仏教の教え」というのは、「ダルマ」のことで、漢訳されて「法」。 「仏教の教団」というのは、「サンガ」のことで、漢訳されて「僧伽」あるいは略して「僧」。(やがてこの言葉は教団ではなく「お坊さん」を意味するようになった。) この三つは、宝にたとえられまして、しばしば「仏法僧」の三宝と呼ばれます。 また、「五戒」というのは、つぎの五つのことを、誰から強制されるわけでもなく、自らすすんで守り、実行することをいいます。 一、不殺生 生き物に危害を加えたり、殺したりしないこと。 二、不偸盗 盗みをはたらかないこと。 三、不邪淫 夫以外の男、妻以外の女とセックスをしないこと。 四、不妄語 ウソをつかないこと。 五、不飲酒 アルコールを飲まないこと。 以上の三帰五戒を誓った人は、正式な仏教徒として教団から認められ、戒名が与えられました。 もっとも、インドでその通りのことが行われていたかどうか、ハッキリしたことはもう一つわかりません。 ということで、もともと戒名というものは生きているうちに貰うものだったのです。 ところが、いつしか戒名は、死んでから貰うものだというふうになってしまいました。 これは「引導を渡す」というもとの意味からも分かりますように、我が国では、死んだ人にお坊さんが教えを説き、仏教に正しく導き入れることが、お葬式でお坊さんが行う仕事になった、ということに原因があるようですね。 |